Basic Guide
フュージョンエネルギー基礎ガイド
夢のクリーンエネルギー 核融合
Fusion — The Dream of a Clean Energy Future.
What is Fusion Energy?
フュージョンエネルギーとは?
フュージョンエネルギーは、宇宙に輝く全ての太陽や星のエネルギーの源です。軽い原子「核」同士が衝突して「融合(1つになる)」ことで、より重い別の原子核となる際に膨大なエネルギーが生まれます。
中でも、最も軽い原子である水素の同位体である「重水素」と「三重水素(トリチウム)」を燃料とした「DT反応」が、人類の未来のエネルギー源として有力視されています。
フュージョンエネルギーは、太陽の反応を人類の手で再現することから「地上の太陽」とも呼ばれています。安全性が高く、地球にあふれる海水を燃料とし膨大なエネルギーを生み出す夢のクリーンエネルギーとして期待されています。
フュージョンエネルギーを実現する鍵
「超高温」×「高密度」×「長い閉じ込め時間」
核融合反応を起こすため、私たちは「プラズマ」状態を作ります。
プラズマは、個体、液体、気体に続く第4の物質の状態と言われます。
温度を上げると、物質は粒子(原子・分子)の動きが大きくなり、個体、液体、気体へと状態が変化します。気体の状態からさらに温度を上げると、原子核の周りを回る電子が、原子核の周りを周回できなくなり、自由に飛んでいってしまいます。ここで、原子核がむき出しになり、原子核と電子が自由に飛び交う状態になることで、原子核の融合を起こせる「プラズマ」状態が生まれます。
原子核同士を融合させて核融合反応を起こすには、原子核の持つ正電荷同士の反発を乗り越えるため、原子核の動く“スピード”を上げて、“衝突回数”を増やし、さらに原子核が“逃げ出さないように長く保つ時間”が必要です。
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高温
原子核の動くスピードを上げるには温度を上げればよく、核融合反応を起こすには1億度を超える超高温が必要です。
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高密度
原子核の衝突回数を増やすには、密度が高い状態(=空間に粒子の数が多い状態)を作り出す必要があります。
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長い閉じ込め時間
超高温で粒子が飛び交い、高密度で粒子の衝突が起こりやすい状態を「熱を逃さずに」保つ必要があります。
核融合反応で膨大なエネルギーを生成できる理由
フュージョン反応は、反応の前後で質量がわずかに減ることを利用して、膨大なエネルギーを生み出します。図1では、中性子(青色※実際の色に変更)と陽子(赤色)の数は変わっていないように見えますが、実際には核融合反応が起こると、0.4%の質量が失われます。
この消えた質量が、エネルギーに変換されることで、フュージョン反応は非常に大きなエネルギーを生み出します。
質量がエネルギーに変換されることは、アインシュタインの「質量とエネルギーの等価性」の方程式(E = mc2)から説明されます。この式は、物質とはそれ自体がエネルギーを凝縮させたものであり、消えた質量は光の速度の2乗をかけ合わせたエネルギー量に変換されることを示しています。
そのため、フュージョン反応における小さな質量変化は、変化した質量(m)がわずかでも、光の速度の2乗(=約9万兆 m2/s2)という非常に大きな数字が掛け合わさることで、膨大なエネルギー(熱や光)が生まれます。
これが、フュージョンエネルギーが少ない燃料で膨大なエネルギーを生み出す原理です。
Fusion vs. Fission
核融合と原子力(核分裂)の違い
フュージョンは「軽い原子核をくっつけて」エネルギーを得る方法、原子力(核分裂)は「重い原子核が割れて」エネルギーを得る方法です。どちらも、原子核からアインシュタインの方程式に基づく質量変化を利用してエネルギーを取り出す点は一致していますが、その仕組みや特性は大きく異なります。
核融合発電は、外部からの加熱と燃料供給に依存するため自発的に反応が進まず、供給を止めれば反応は即座に停止する反応の特性を有します。また、長寿命高レベル放射性廃棄物を出さない安全性、海水を燃料とする資源の無尽蔵性など、核分裂とは異なる特性を有します。
核融合
(フュージョン)
- 原理
- 「小さな」原子核が融合する
- 自発性
- 地球上で自発的には起こらない
- 連鎖反応
- 連鎖反応は起こらない
- 廃棄物
- 長長寿命核種(≒核のゴミ)が生成されない
- 燃料資源
- 燃料資源は事実上無尽蔵
割れた瓶がくっつくことは?人の手で起こさない限り起こらない。
フュージョン反応は、地球上で自然に起きることはなく、連鎖反応も起こらない
核分裂
(原子力)
- 原理
- 「大きな」原子核が分裂する
- 自発性
- 地球上で自発的には起こる
- 連鎖反応
- 連鎖反応が起こる
- 廃棄物
- 長長寿命核種(≒核のゴミ)が生成される
- 燃料資源
- 燃料資源は有限
大きな原子が割れる反応は、自然に起きる。
たとえば、机から落としたガラスが割れるように。そして燃料の量が一定を超えると、連鎖反応で次々と原子が割れる反応が引き起こされる。
Safety
フュージョンエネルギーの安全性
フュージョンエネルギーは、反応の燃料として(比較的半減期の短い)放射性物質である三重水素を取り扱うことが想定されています。また、反応の際に放射線(中性子線)が発生し、それにより放射化した構造物等の材料物質、およびそれら放射化物質や燃料の三重水素が付着した機器類等の管理が必要です。
一方で、フュージョン反応はその原理上暴走や人体への影響が大きい物質を出さないという安全上の特徴を有しています。
01 臨界事故・爆発
フュージョンは、核分裂(原子力)のような連鎖反応ではないため、臨界事故や核的暴走という現象がそもそも成立しません。
フュージョンは、連鎖反応を起こしません。必要な燃料が供給され、かつ温度・圧力等の条件が整ったときにのみ起こるものであり、それらの条件が崩れれば直ちに反応は止まります。すなわち、人の手で反応を起こさない限り、決して持続しない反応であり、何か異常が起きた際には直ちに反応が停止する安全上の特徴を有しています。
これに対して核分裂反応では、核燃料中のウランなどに中性子が衝突すると、核分裂が起こり、新たな中性子が放出されます。この中性子がさらにほかの核燃料物質に当たることで、核分裂反応が連鎖的に進行します。
核分裂は、燃料の量が一定以上になると、自発的な連鎖反応(=臨界)が継続します。そのため、制御が不能になると臨界事故に至る可能性があります。
一方で、フュージョンはどれだけ燃料が集まっても、独りでに反応が始まることはありません。
したがってフュージョンは、核分裂が抱える核的暴走や臨界事故というリスクを原理的に有していません。無論、爆発という可能性も存在しません。
02 トリチウムの環境放出
フュージョンプラントからは微量のトリチウムが環境へ放出されることが避けられませんが、放出量を最小化する多重の対策が行われ、法規制以下の放出となるため、環境ならびに健康への影響は生じません。
トリチウムは、完全に閉じ込め除去することが化学的に困難な物質であり、フュージョンプラントからは毎年微量のトリチウムが環境に放出されることが避けられません。
フュージョンプラントではトリチウムの環境放出量を最小化するため、多重のトリチウム除去システムが設けられ、環境ならびに健康への影響を生じないよう設定された規制基準値以下となることが遵守されます。
現在の規制基準値は以下の通りです。
- 排水中のトリチウム濃度 60,000 Bq/L
- 排気中濃度 5Bq/L
これは、この基準の水を毎日2L飲み続けた場合でも、また大気を毎日吸い続けた場合でも、年間被爆量が1ミリシーベルト以下に抑えられる値であり、安全側に設定されています。
フュージョンプラントからのトリチウム環境放出量は、年間 1 g を十分に下回る量になると想定されています。この年間 1 gという量は、現在日本で運用されている原子力発電所が毎年放出している量より若干多いものの、六ヶ所再処理工場で想定される放出量と比較すると10分の1以下です。
また、航空機墜落、テロ等の外的な要因により、フュージョンプラントに貯蔵されるトリチウムが強制的に飛散された場合でも、全量は十数kgに過ぎず、(質量で原発の1,000分の1から10,000分の1)、かつほとんどが気体として大気中に拡散し希釈するため、その影響は原発と比して、著しく低いものとなっています。(潜在的放射線リスク指数で、原発の100分の1以下)
03 反応による中性子発生
フュージョン反応で発生する中性子は、炉およびコンクリート壁でほぼ完全に遮蔽されるため、周囲に影響を与えない。
フュージョン反応で発生する中性子は、まず炉心を覆うように配置されるブランケットという装置で吸収され、それ以外の中性子も炉の周囲に設置されるコンクリート壁によってほぼ完全に遮蔽されます。
1試算では、フュージョン炉の中心から180メートルの至近地点に1年間立ち続けた作業員であっても、フュージョンより発生する中性子による被ばく量は年間わずか0.066ミリシーベルトにとどまる。1) 竹内清、核融合炉遮蔽の諸問題、日本原子力学会誌(1980)
(同じ期間に、この作業員は自然界から30倍にあたる 2.1 ミリシーベルトを被ばくする。また放射線従事者の年間被ばく量の上限は50ミリシーベルトである。)
これはフュージョンプラントの外には、事実上中性子は漏洩せず、ほぼ完全に遮蔽されると表現してよい数字です。
04 放射化物の管理
フュージョンエネルギープラントでは高レベル放射性廃棄物が発生せず、数万年間の地層処分が必要な「核のゴミ」は出ない。
一方、炉内の機器は放射能を帯びるため、プラントの敷地内に最大50年程度とどめて埋設の必要がある。
フュージョン反応はウラン、プルトニウム等の核燃料を用いないため、数万年間の地層処分が必要となる「核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)」は発生しません。
一方で、フュージョン反応により生じる中性子によって炉心の各種機器が放射化を起こすため、放射能を帯びた廃棄物が運用により生じます。
→年間発生量:ブランケット約 2,700トン、ダイバータ 約 1,500トンと試算1)
1) (非公開)原型炉特別合同チーム, 安全設計(廃棄物管理)班会合資料 (2024) より
これらの廃棄物は、全て低レベル放射性廃棄物と呼ばれるものであり、まず5〜15年程度保管建屋で保管し、その後敷地内に50年程度保管した上で、適切に埋設し処分します。
処分に地層処分(地下数百メートルに数万年の保存)が必要となる廃棄物は一切排出されず、全ての廃棄物が再利用または埋設による処分が可能です。
Advantage
フュージョンエネルギーの利点
フュージョンエネルギーは、海水に存在する豊富な燃料を使い、運転時に温室効果ガスを出さず、反応を止めやすく、長寿命高レベル放射性廃棄物が生じない、次世代の高エネルギー密度電源です。
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豊富な資源
海水から燃料を取り出せる。
1000万年以上の稼働が可能。 -
環境保全性
発電中に温室効果ガスを出さない。
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安全性
反応は自然には起こらない。
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放射性物質の管理の容易さ
高レベル放射性廃棄物を出さず、
100年経てば放射性は失われる。 -
エネルギー効率の高さ
1gの燃料に対し、原子力の4倍の
エネルギーを獲得できる。
Mechanism
フュージョンエネルギーからエネルギーを得る仕組み
フュージョンエネルギーは、重水素と三重水素の原子核を1億度以上の超高温・超高密度状態の環境で融合させ、質量変化で生み出される膨大なエネルギーを電気に変換します。この膨大なエネルギーは、80%を中性子、20%をヘリウムが持っています。
中性子は、非常に高い運動エネルギーを持ってプラズマの外へ飛び出し、ブランケット(毛布の意味)と呼ばれる壁に衝突します。衝突により中性子は減速し、ブランケット内で運動エネルギーが熱エネルギーに変換されます。
その後、ブランケットに溜まった熱に水やガスを通すことで、水やガスに熱エネルギーを渡し、ブランケット内の熱エネルギーを蒸気として外に運び出します。この蒸気(350℃~400℃)がタービン(回転羽根)発電機を勢いよく回すことで発電します。
核融合反応後に発生するヘリウムは、プラズマ内の加熱エネルギーとして働いたのち、最終的に排気されます。
ヘリウムから生まれる加熱のみでは、プラズマ温度を維持できないため、プラズマ加熱装置を使って、継続的にプラズマを加熱します。燃料自己供給機能も備えている。
トカマク型核融合発電の仕組み
Toward Fusion
フュージョンエネルギーの実現に向けて
フュージョンエネルギーがなぜ必要か?
フュージョンエネルギーは、エネルギー資源や温室効果ガスの制約から解き放たれた社会を実現する、夢のクリーンエネルギーです。尽きることのない“地上の太陽”として、私たちと次の世代の未来を照らすエネルギーへの挑戦が、いま世界各国で進められています。フュージョンインダストリー研究センターでは、フュージョンエネルギーを工学のみならず、経済・政策・地域共生の観点から総合的に捉え、研究と社会実装をつなぐ橋渡しの役割を担っています。
私たちは、フュージョンエネルギーの実現を通じて、エネルギー循環が自立的に機能する社会の構築、そして資源獲得競争に依存しない国策と産業育成を目指しています。
私たちの挑戦は、誰もが安定的にエネルギーを得られる社会を実現し、資源をめぐる争いに終止符を打ち、持続的で平和な未来を築くことです。